歯科関係の方へ

症例1〜38才の男性〜

主訴
左上8番の冷水痛
口腔内所見
全体に歯列不正と慢性炎症がみられ、隣接には6mm以上のポケットが存在し多量の縁下歯石も認められます。 上顎前歯部は叢生のため2〜2は歯肉が棚状で、それに伴い自浄作用が低下しています。 小臼歯部は歯肉短縮が著しく、付着歯肉部分も減少しています。
X-P所見
多量の縁下歯石の付着と垂直的な骨吸収が著明で、大臼歯には分岐部病変も認められます。 主訴の8番は、カリエスに起因する急化pulによるものと考えられます。

初診時

自覚症状は全くなくCaries activity も低いため,まずは現状を認識してもらう事から入り,予想される今後の病状を説明しました。

IP終了時

歯肉の炎症が少し引いて、所々隣接部分にクレーター状の歯肉退縮が見られるようになりました。
繊維性の炎症のある方は歯ブラシによる反応が悪いと言われますが、 この患者さんも歯石に光沢がでてきている割に、歯肉の改善が思わしくありませんでした。 しかしモチベーションもうまくいっていて、ブラッシングテクニックも向上していたので、この後P-cur処置に入りました。 その際できるだけ歯肉の余計な退縮を避けるため、縁下歯石のみを取るように心がけました。

メインテナンス

以前のゴツゴツした肥厚な感じがなくなり、逆に一見弱そうな歯肉にもみえますが、 かなり歯肉の状態も安定してきてポケットも大臼歯の分岐部を除き3mm以下におさまっています。 小臼歯は歯石によって押し下げられていた歯肉も本来の位置に戻り、 特に右上2番の遠心のクレーター状の歯肉もぼそぼそした歯肉でうまりつつあります。

考察

ポケットの減少に対する歯肉の短縮の割合を考察すると、臨床的なアタッチメントゲインもありえると思います。 勿論組織学的な再付着は考えにくく、ポケットがタイトになった結果としての、長い接合上皮の付着と想像されます。 実際初診時に見られた状態は歯肉の細菌性生産物に対する耐性が普通の方より強く、 それ故ブラッシングによる反応が目立たなかったのかと思われます。 (専門的な事は分かりませんが、生体の防御反応が線維牙細胞の増殖を促したのでしょうか?)

感想

この患者さんに出会う前は、こういう反応の悪い歯肉には歯間ブラシなどを利用して歯肉を下げる事がポケットを消失させる事につながると考えていましたが、 通院が可能でうまくモチベートされている方には歯肉の可能性を信じて、 のんびりと歯肉の変化を診ていけば、最良の結果を生むことが出来ると再認識しました。 実際F-opを予定していた箇所もあったのですが、この場合外科処置を行っていたら歯肉短縮の起因になり、ポケットは消失してもブラッシングが難しくなり患者さんの負担を 増やしてしまう可能性が高かったと予想されます。 何れにせよ早急な判断は、患者さん自身のためにならないと言うことが、 うまく伝えることが出来て良かったです。