骨 折 fracture                        

A 定義                                                                    

骨折は骨組織の連続性が完全あるいは部分的に離断された状態をいう

B 分類                                                                    

骨の性状

外傷性骨折

正常な骨に外力が加わり骨の連続性が離断された状態

疲労性骨折

一度では骨折しない程度の外力が持続的または繰り返し作用し発生

中足骨・脛骨・腓骨・肋骨 

長管骨に多い・介達外力・疼痛が主症状・横骨折

病的骨折

基礎的な疾患により脆弱になっている骨組織に僅かな外力で発生 抵抗力が減弱

→特発性骨折

局所的誘因 骨腫瘍・骨肉腫・化膿性骨髄炎・骨巨細胞腫

全身的誘因 くる病・骨形成不全症・大理石病・老人性骨粗鬆症

                   ペーチェット病・上皮小体機能亢進症

骨折の程度

完全骨折

骨の連続性が完全に離断された状態

不全骨折

骨の一部が損傷を受けず連絡を保っている状態

1)亀裂骨折→頭蓋骨・肩甲骨・腸骨

2)若木骨折→小児の鎖骨骨折・前腕骨

3)陥凹骨折→頭蓋骨

4)竹節状骨折→小児の橈骨遠位端部

5)骨膜下骨折→小児の脛骨骨幹部

     6)骨膜損傷

骨折線の方向

横骨折

骨長軸に対して直角

縦骨折

骨長軸に対して平行

斜骨折

骨長軸に対して斜め

螺旋骨折

骨長軸に対して螺旋状

複合骨折

1)T・V・Y字状骨折→上腕骨遠位端部・大腿骨遠位端部・高齢者の骨折

2)骨片骨折 1・2個の骨片を有する骨折

3)粉砕骨折 多数の小骨片を有する骨折

骨折の数

単発骨折

単数骨折

1本の骨が1ヶ所で骨折

複数骨折

二重骨折

1本の骨が2ヶ所で骨折

 

重複骨折

1本の骨が3ヶ所以上で骨折

多発骨折

2本以上の骨が同時に骨折 脛骨と腓骨との骨幹部骨折

部位

直達性骨折

外力が直接加わった位置での骨折

介達性骨折

外力が誘導され離れた位置での骨折 

ゴルフの肋骨骨折・投球骨折・腕相撲骨折

外力の働き方

剥離(裂離)骨折

筋・腱・靱帯の牽引力により骨折

脛骨粗面骨折(膝蓋靱帯)・上腕骨内側上顆骨折(内側側副靭帯)

上前腸骨棘・第5中足骨

屈曲骨折

屈曲力により骨折

1)第1型 骨折線は凸側から直角に進み凹側に三角形の骨片が生じる 骨片骨折

2)第2型 一端が固定された状態で骨折線は凸側から固定側に斜めに向かう

上腕骨顆上骨折・橈骨遠位端部骨折

3)第3型 骨輪を形成している部位に2方向よりの外力が加わり骨折 骨盤・胸郭

圧迫骨折

軸圧骨折(長軸に軸圧)圧潰骨折(海綿質)椎体の圧迫骨折・踵骨骨折

歯合骨折・咬合骨折・楔合骨折→小児の橈骨遠位端の竹節状骨折

剪断骨折

反対方向で密接した2つの外力が平行に働き発生(横骨折

捻転骨折

両端に相反する捻転力が働き発生(螺旋状骨折

上腕骨骨幹部の投球骨折・腕相撲骨折・スキーによる下腿骨骨折

粉砕骨折

強大な外力が働き多数の小骨片に粉砕したもの開放性になることが多い

陥没骨折

扁平骨で円状に骨折線が生じ陥没→頭蓋骨骨折・腸骨骨折 

破裂骨折

頭蓋骨にみられ強い圧迫をうけ破裂粉砕

交通の有無

単純骨折

(閉鎖性骨折・非開放性骨折・皮下骨折)

複雑骨折

(開放性骨折)皮膚創を通じ骨折部が外界と交通

上腕骨顆上伸展型―肘窩・橈骨遠位端骨折−手部掌部

下腿骨骨幹部(定型)−下腿前内方・下腿骨果部外転型骨折(定型)−足関節内側  

部位

骨端部骨折

近位端部骨折・遠位端部骨折

骨幹部骨折

1/3部・中1/3部・下1/3部、筋付着部の上下

経過

新鮮骨折

血腫形成期から仮骨硬化期までのもの

陳旧性骨折

仮骨硬化期以降

C 症状                                                                    

局所症状

一般外傷症状

疼痛腫脹・機能障害

自発痛・限局性圧痛(直接性局所痛)Malgaigne骨折痛

(例外:L1椎体圧迫Fx・大腿骨骨頭部Fx

介達痛 軸圧痛・叩打痛・圧迫痛・牽引痛・動揺痛

骨折固有症状

異常可動性(不全骨折・圧迫骨折・噛合骨折・関節付近の骨折は証明しにくい)

軋轢音(異常可動性無し・骨折端離開・騎乗骨折・軟部組織介在は証明しにくい)

転位と変形

発生機序分類 一次性転位・二次性転位(外力・筋の牽引力・患肢の重量)

形状分類 側方転位・屈曲転位・捻転転位・延長転位・短縮転位

全身症状

 

ショック 科学・物理・精神的な刺激による神経系の興奮、または失血により生じる

発熱 骨折数時間後に37〜38度の吸収熱

D 小児骨損傷・高齢者骨損傷の特徴                                                  

小児骨損傷の特徴

高齢者骨損傷の特徴

1.骨膜は厚く強靭で、血行に富んでいる 骨癒合が早い

→骨膜性仮骨成長が旺盛・癒合期間は成人の2/3

2.骨は柔軟性に富んでいる 不全骨折になりやすい

→膠原組織が多い・石灰化密度が小さい・ハバース管が大きい(耐変形)

3.骨端軟骨板が存在する

→TUV型では成長能の低い肥大軟骨層のため予後良好 

発生頻度はU型が多い

W型(骨幹端〜関節軟骨)やX型(骨端軟骨圧挫)は予後不良

4.骨のリモデリングが盛んである

→特に骨端に近い骨折や関節運動の方向に一致した転位

(屈伸運動方向)

逆に捻転転位や関節内骨折は小児においても難治

原則は保存・多発は虐待の可能性・関節拘縮に自動運動

5.骨損傷の治癒過程で骨に過成長が起こる

→充血により骨端軟骨板が刺激を受け長径成長が促進 

大腿骨骨幹部骨折

6.診断上の特徴

→正確な負傷原因、発生機序、経過、主訴が把握しにくい上

虚偽の訴えにも考慮

7.治療上の特徴

→保存療法が原則だが偽関節や変形治癒が予測される時は

観血的治療の適応

1.海綿骨の骨粗症化+バランス感覚の低下

上腕骨外科頚骨折・橈骨遠位端部骨折・

大腿骨頚部骨折・胸腰椎椎体圧迫骨折

2.治療上の特徴

強固・長期間の固定で関節拘縮

短期間の固定で変形治癒

合併症の防止 

痴呆・肺炎・尿路感染・褥瘡・拘縮

→早期の離床

 

E 治癒経過                                                                 

炎症期

受傷時〜24時間→出血やリンパ液の遊出で血腫、更に周辺に線維素網を形成

24時間〜48時間→好中球多核白血球・リンパ球・血管芽細胞が入り込み肉芽組織を形成

48時間以降→膠原繊維による器質化

仮骨形成期

1週間→骨芽細胞(有糸分裂開始)による骨や骨細管の形成

3週間→白血球・リンパ球・血管芽細胞・破骨細胞などの再編成、骨髄腔の形成

結合組織性仮骨に石灰塩が付着し類骨組織を形成(至適pHアルカリ性)

仮骨硬化期

4週間→吸収・添加作用により成熟した骨梁を形成(骨性石灰化)

リモデリング期

紡錘形の硬化仮骨は吸収・添加を繰り返し正常な形態に順応(自家矯正)捻転転位・関節内は×

骨癒合日数

@指骨     週間

A肋骨・中手骨 週間

B鎖骨     週間

C前腕骨    週間

D腓骨     週間

E上腕骨    週間

F脛骨     週間

G下腿両骨   週間

H大腿骨    10週間

I大腿骨頚骨  12週間

上腕骨外科頚 7週間

F 治癒に影響を与える因子                                                        

好適な条件

不適な条件

1.軟部組織の損傷が少なく、両骨折端が血腫内にある場合

2.両骨片への血行が良好な場合

3.骨折部にかかる力がすべて圧迫力で、剪力が働いてない場合

4.細菌感染のない場合

5.海綿骨の骨折の場合

6.噛合した骨折の場合

7.骨折面の密着した骨折線の長い螺旋状、または斜骨折の場合

8.年齢が若い場合

9.栄養状態が良好な場合

10.骨疾患や全身疾患のない場合

1.骨折部に高度な軟部組織の損傷や欠損がある場合

2.骨折部の血腫が消失している場合

3.骨片の一方、または両端の血流が悪い場合

4.骨折端が広く離開している場合

5.骨折部に絶えず力が作用している場合

(屈折運動、牽引力、回転力、剪力)

6.高度の粉砕骨折の場合

7.関節包内骨折(骨膜性仮骨が期待できない)の場合 

関節内ショウファー骨折・バートン

損傷部は線維軟骨が増殖修復・

長期固定は軟骨の障害促進・

軟骨下組織損傷には修復反応

8.開放性骨折や細菌感染のある場合

9.高齢者および栄養状態が不良な場合

10.骨疾患や全身疾患などのある場合

G 合併症                                                                   

併発症(狭義の合併症)

1.関節損傷 関節構成組織(靱帯・関節軟骨・関節包・関節唇・滑液包)の損傷

→小児の成長障害・成人の変形性関節症

2.筋・腱などの軟部組織の損傷

開放性骨損傷では細菌感染(破傷風・ガス壊疽・化膿性骨髄炎)

→遷延治癒・偽関節

重篤な筋挫滅では急性腎不全・クラッシュシンドローム

→欠尿・ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿・蛋白尿・アシドーシス・全身浮腫

3.内臓損傷

鎖骨損傷→肺損傷、肋骨損傷→肺・脾臓・腎臓、骨盤損傷→尿道・膀胱・直腸壁

奇異呼吸―多発肋骨骨折・肝破裂―右肋骨弓骨折・膀胱破裂―尾骨単独骨折

4.脳脊髄損傷 脳頭蓋・顔面頭蓋→脳損傷、脊椎骨損傷→脊髄損傷

5.血管損傷 末梢部の循環障害、骨片の無腐性壊死、動脈性血行障害の阻血性拘縮

6.末梢神経損傷 上肢→橈骨・尺骨・正中神経損傷、下腿骨→腓骨神経損傷

続発症

1.外傷性皮下気腫 肋骨骨折の際の肺損傷→瀰漫性・扁平・弾力性・捻髪音

2.脂肪栓塞 大腿骨骨折・骨盤骨折・多発骨折

受傷1〜3日で骨髄脂肪が血液内に流出(肺栓塞・脳栓塞・心栓塞)

3.仮骨の軟化・再骨折 全身的疾患伝染病・壊血病、局所的疾患峰巣織炎・丹毒

4.遷延仮骨形成 阻害因子により骨癒合が緩慢

5.コンパートメント症候群 隔室内の組織内圧が高まり循環不全を生じる機能障害

前腕の屈側部・下腿部・骨間筋(手部)・母指球(手部)

6.長期臥床による 沈下性肺炎・褥瘡・深部静脈血栓症・筋萎縮・尿路感染・痴呆

後遺症

1.過剰仮骨形成 関節運動障害や圧迫による神経損傷・循環障害を誘発

架橋仮骨→前腕骨の回旋運動制限

発生原因 粉砕骨折・大血腫・骨膜の広範な剥離・強い圧迫固定・早期の後療法

2.偽関節 遷延治癒から偽関節に移行(通常6ヶ月)観血的療法適応

手舟状骨骨折・脛骨中下1/3境界部骨折・前腕両骨骨幹部骨折

局所的原因

全身的原因

治癒的原因

局所的癒合障害作動力

血行状況不良部

粉砕骨折による骨の欠損

血腫分散および流出

骨折端間に軟部組織の介在

体質異常

内分泌異常

栄養障害

整復状態の不良

固定状態の不良

短い固定期間

過度の牽引療法

不適切な後療法

3.変形治癒 不正確な整復・不適当な固定・関節内骨折・小児の骨端部損傷

4.骨萎縮 添加作用が停止し吸収作用が働いた場合に骨面積が縮小

ズデック骨萎縮→有痛性骨萎縮、小動脈の血管攣縮による交感神経障害

コーレス骨折(橈骨遠位端部骨折)・踵骨骨折・脛骨遠位端部

5.無腐性骨壊死 供給血管の損傷による骨壊死

股関節の脱臼骨折・大腿骨頚部内側骨折・手の舟状骨骨折(近位骨片)

距骨骨折(顆部骨折の後方骨片)

6.関節運動障害 長期の固定・関節内骨折・関節近隣の骨損傷・過剰仮骨・変形治癒

関節強直→骨・軟骨に起因し関節骨面が癒着

関節拘縮→軟部組織(関節包・靱帯・筋・皮膚)が萎縮・収縮し可動域を制限

7.外傷性骨化筋炎 筋組織内・骨膜外の血腫が吸収されず骨化 上腕・大腿の各筋

暴力的な運動療法・マッサージ→局所の腫脹・疼痛・熱感・運動制限

8.フォルクマン拘縮 前腕屈筋群の阻血性循環障害 小児の上腕骨顆上骨折

   骨片転位の未整復・過度の腫脹・緊縛包帯

24時間以内→浮腫・自発痛・チアノーゼ・拍動消失・冷感・知覚麻痺

       前腕回内・手関節掌屈・母指内転・MPJ過伸展・IP屈曲

予後

1.生命に関する予後 他器官の合併損傷・全身状態の変化・合併症の有無

2.患肢の保存に関する予後 一時的損傷の程度で判定

3.患肢の形態および機能に関する予後 二時的合併症の可能性

4.治癒経過期間の判定 骨癒合に対する様々の影響・条件・平均癒合日数を参照

脱 臼

A 定義                                                                     

関節を構成している関節端が解剖学的状態から完全または不完全に転位して、

関節面の生理的相対関係が失われている状態

B 分類                                                                             

関節の性状

外傷性脱臼

正常な関節に外力が働き損傷部から関節包外に脱出

病的脱臼

基礎的疾患があり僅かな外力(外力なし)で発生 関節包内脱臼

麻痺性脱臼 筋の弛緩的麻痺による関節包の伸張 麻痺における肩関節不全脱臼

拡張性脱臼 関節内異物による関節包の拡張 急性化膿性股関節炎・結核性股関節炎

破壊性脱臼 関節包や関節体の破壊 関節リウマチ

脱臼の程度

完全脱臼

完全に連続性がたたれたもの

不全脱臼

部分的に連続性がたたれたもの

単純脱臼

被覆軟部組織損傷を伴わない脱臼

複雑脱臼

被覆軟部組織損傷により関節腔が創部と交通

関節相互の位置

 

前方脱臼

 

後方脱臼

 

上方脱臼

 

下方脱臼

 

側方脱臼

 

中心性脱臼

大腿骨骨頭が寛骨臼窩を破壊し骨盤弓に陥入

脱臼数

単数脱臼

1ヶ所の関節で脱臼

複数脱臼

1本の骨の中枢と末梢の2ヶ所の関節で脱臼

多発脱臼

2ヶ所以上の関節で脱臼

原因

直達性脱臼

関節部の打撲・衝突 膝関節・足関節・リスフラン関節・手関節・股関節(中心性)

介達性脱臼

大部分の外傷性脱臼 骨頭が梃子の原理で関節包を損傷し脱出

脱臼の経過

先天性脱臼

関節形成時期の発育欠陥 先天性股関節脱臼 関節包内脱臼

後天性脱臼

出生後の外傷や疾病により発生

新鮮脱臼

数日以内

陳旧性脱臼

3週間

機序

反復性脱臼

外傷性脱臼に続発 顎関節・肩甲上腕関節・膝蓋大腿関節

習慣性脱臼

軟骨の発育障害・関節の弛緩・心因性 膝蓋骨後方脱臼

随意性脱臼

意図的に脱臼・整復が可能

C 症状                                                                              

一般外傷症状

脱臼固有症状

疼痛 

圧迫感のある持続性疼痛

腫脹および関節血腫 

関節腔隙の関節血腫を生じ皮下に達すれば皮下出血班

機能障害 

一定の肢位に固定され疼痛に耐えてわずかの運動が許される

弾発性固定 

他動的に運動を試みると弾力性の抵抗を覚え、

力を緩めると戻る

関節部の変形 

関節軸の変化関節自体の変形肢長の変化 

階段状変形―肩鎖関節上方脱臼

D 合併症 E 整復障害 F 予後                                                     

脱臼骨折

脱臼+腱靱帯付着部の裂離骨折=肩関節脱臼+大結節骨折

脱臼+突起部などの剥離骨折=肘関節脱臼+鉤状突起骨折

脱臼+近接骨の骨折=モンテギア骨折

脱臼の整復を優先→完全整復した骨折でも脱臼整復時の外力で再転位 例外:モンテギア骨折

血管神経損傷

外力作用時の損傷、骨頭による圧迫、腫脹による圧迫、整復動作時の損傷

→肩関節・肘関節・股関節・膝関節

 

 

軟部組織の損傷

開放性脱臼→細菌感染

関節包の損傷→例外:顎関節脱臼・loose shoulder起因の肩関節脱臼

靱帯および腱損傷

その他(筋・筋膜・関節軟骨・関節唇損傷)

整復障害

ボタン穴機構 脱臼した骨頭が筋により絞扼される

     仮性整復 関節包の一部と骨頭が関節窩に入り牽引を緩めると再脱臼

掌側板または種子骨の嵌入 1中手指節関節の脱臼(水平脱臼)

関節包、筋、骨片による整復路の閉鎖

整復に際して支点となるべき骨部の骨片による欠損

関節包ならびに補強靱帯および骨部の骨折による欠損

陳旧性脱臼

予後

関節固定→出血吸収→瘢痕治癒→滑膜被覆

強固な固定 癒着・関節機能障害

不十分な固定 反復性脱臼

脱臼骨折 関節強直(骨癒合)過剰仮骨のため関節機能障害

陳旧性脱臼 骨頭萎縮・仮性関節窩

打 撲

A 定義                                                                                   

筋肉を直建外力による強打または極度に強い圧力で圧迫されて発生する皮下損傷

B 症状                                                                          

筋挫傷による著しい疼痛・腫脹 広範囲・深層に及ぶ損傷→生命の危機(挫滅症候群)

捻 挫

A 定義                                                                         

四肢や体幹のうち関節の可動域(運動範囲)を越えて外力が及んだ場合、脱臼、亜脱臼もおこるが、

関節内外の靱帯や筋、腱、関節包等の軟部の損傷をおこすもので、時に骨折を伴うこともある

B 成因                                                                                   

 

C 症状                                                                            

T度

靱帯の微小断裂・関節の不安定性はない

U度

靱帯の部分断裂・関節の不安定性は軽度

V度

靱帯の完全断裂・関節の不安定性が著明

軟部組織損傷

A 筋損傷                                                                         

外傷性筋損傷

正常な筋に外力が作用

急性

破断強度を超えた荷重または準備状態でないときの加重

亜急性

 (疲労性筋損傷)

就労作業・スポーツによる持続的・継続的な外力

局所循環障害(寝違い)長時間に亘る片側性の伸長状態

過大・長時間の荷重や筋緊張による過労性筋炎

筋痙攣強度な収縮 腓腹筋(こむら返り)・大腿屈筋群・背筋

病的状態

 進行性筋ジストロフィー・多発性筋炎・Charcot-Marie-Tooth

脊髄性小児麻痺・進行性骨化性筋炎・感染(破傷風)・注射(医原性)

損傷の程度による分類

 

T度

筋線維の断裂は認められないが筋が引き伸ばされた状態

運動時の損傷部に不快感・違和感・疼痛

U度

部分断裂損傷

圧痛・腫脹・筋腹間に陥凹・収縮は可能だが疼痛のため収縮不能

V度

完全断裂損傷

強い圧痛・腫脹・筋腹間に陥凹・収縮不能

受傷後約24時間に末梢部の皮下出血斑

部位による分類

 

長軸

起始部・筋腹部・筋腱移行部

浅深

筋膜(筋ヘルニア)・筋の浅層(伸展断裂)・筋の深層(圧迫断裂)

筋肉間損傷

筋線維束の間の結合組織に損傷が起こり内出血を生じる1

筋肉内損傷

部分断裂で筋線維間に出血し瘢痕形成するU度

  症状 硬結・腫瘤・陥凹の触知・伸長度の低下・筋力低下

  治癒 筋芽細胞による非連続的再生・瘢痕組織 再度筋損傷の可能性

骨化性筋炎 上腕骨顆上骨折の上腕筋は骨化機転が旺盛 急性期には安静・固定・冷湿布

B 腱損傷                                                                    

損傷の程度による分類

T度

腱線維の断裂は認められないが腱実質・滑液包・腱鞘・止帯の損傷

運動時の疼痛・瀰漫性の腫脹・圧痛

U度

部分断裂損傷

運動時の疼痛・圧痛・腫脹・血腫・陥凹

V度

完全断裂損傷

強い圧痛・損傷部に陥凹・運動不能・早期の腫脹と皮下出血斑

  腱の補助組織 滑液包・腱鞘・筋滑車・種子骨・止帯・腱弓

  断裂:アキレス腱・棘上筋腱 炎症:De Quervain腱鞘炎

 

損傷の部位による分類

腱実質部での損傷

アキレス腱

骨との摩擦が頻繁な部での損傷

棘上筋腱+肩峰 長母指外転筋腱(短母指伸筋腱)+橈骨茎状突起

上腕二頭筋長頭腱+上腕骨結節間溝 長母指伸筋腱+リスター結節

腱移動の大きな部での損傷

指屈筋腱+MP関節掌側部=バネ指

腱付着部での損傷

終止腱付着部・踵骨付着部・膝蓋骨・脛骨付着部・上腕骨起始部

腱の走行位置に異常を起す損傷

腓骨筋腱脱臼

治癒 受傷後2日 腱外膜の線維芽細胞はコラーゲン産生

23週間 腱内膜から強い張力を持つ修復腱

C 靱帯損傷                                                                        

   母指中手指節関節‐尺側側副靱帯

肘関節‐内側側副靱帯

膝関節‐内側側副靱帯

距腿関節‐前距腓靱帯

D 血管損傷                                                                    

   外出血 開放性損傷 

内出血 皮下の出血斑・変色・膨隆・波動・血腫・圧痛

阻血症状 疼痛・蒼白・拍動消失・知覚異常・麻痺

全身症状 血圧低下・脈拍数増加・冷汗・尿量減少・意識状態の変化・呼吸数増加

E 神経損傷                                                                    

  自律神経損傷 発汗異常・チネル徴候

  末梢神経損傷 感覚消失・腱反射消失・筋力低下

Seddonの分類

一過性伝導障害 neurapraxia

神経圧迫症状

軸索の連続性は保たれるため完全回復

軸索断裂 axonotmesis

圧迫・牽引・圧挫損傷

軸索の連続性消失・末梢の軸索(Waller)変性

神経内膜鞘の連続性は保たれるため中枢から再生軸索

神経断裂 neurotmesis

重篤な外傷→観血的処置

Sunderland分類V 神経内膜鞘の連続性消失

         W 神経上膜組織の連続性消失

         X 神経幹の連続性消失

F 皮膚損傷                                                                                  

  創傷の型 切傷・刺傷・挫傷・割傷・裂傷・射傷・銃創・剥離創・咬創

  損傷組織の治癒過程 炎症性反応相・線維増殖相・成熟相

初期評価

中期評価

最終評価

柔道整復の業務範囲

→損傷障害の程度や

残存能力の確認後、治療方針決定

否→専門医へ転送

治癒過程での再評価

治癒のゴールに到達できるか治療続行の必要性や

回復の限界などの評価判定

自己管理指導(損傷予防・健康増進)

治療法

A 分類                                                                             

保存(非観血)的療法

手術(観血)的療法

長骨骨折の場合、長軸方向への十分な牽引力

骨片転位を生理的状態に復する方向

軟部損傷を正確に把握し損傷されてない組織を利用

近位骨片の位置に応じて遠位骨片を合わせる

(例外:膝蓋骨骨折・肘頭骨折)

徒手整復法が不可能な骨折

(粉砕骨折・筋力による延長転位のある骨折・軟部組織の介在した骨折)

整復位の保持が困難な骨折・

関節内にあって解剖学的整復が要求される骨折

B 整復法                                                                           

骨折

徒手整復法(牽引直圧整復法・屈曲整復法 短縮転位の困難な横骨折

牽引整復法(介達牽引法)偽関節に注意

脱臼

槓杆作用を応用した方法 骨の一部分を支点として槓杆作用を応用した整復法

牽引作用を応用した方法 筋緊張を取り除く事を重点に二次的損傷を防ぐ理想的な整復法

C 軟部組織損傷の初期処置                                                          

捻挫(靱帯損傷)の初期処置

RICE(安静・冷却・圧迫・挙上)を原則 患者に治療の必要性を説明

当該関節の損傷程度により固定法(損傷靱帯を弛緩)・材料・期間・運動制限(免荷)を決定

関節の安静固定・消炎の促進・患部の高挙(温熱療法は数日後)

筋損傷の初期処置

RICEを原則 患者に治療の必要性を説明(コンパートメント症候群)

損傷程度により固定法・材料・期間・運動制限や禁止(免荷)を決定

経過観察(受傷後48時間〜72時間後) 腫脹・出血・筋機能の回復チェック

腱損傷の初期処置

RICEを原則 患者に治療の必要性を説明・損傷程度により

固定法・材料・期間・運動制限や禁止(免荷)を決定

神経損傷の初期処置

筋麻痺が関与関節には良肢位保持(固定具) 拘縮予防に理学療法や後療法

血管損傷の初期処置

RICEを原則 患者に治療の必要性を説明(阻血性拘縮・急性コンパートメント症候群)

Pのチェック(緊急時には筋膜切開) 一定期間の固定・運動制限や禁止(免荷)

皮膚損傷の初期処置

擦過傷 水による十分な洗浄・滅菌ガーゼを当て被覆包帯をして転医

切創傷 止血・洗浄・滅菌ガーゼを当て被覆包帯をして緊急に転医

刺傷  化膿や破傷風・ガス壊疽の危険性に注意し緊急に転医

D 固定法                                                                           

目的

骨折・脱臼の整復位保持再転位の防止・患部の安静保持・患部の可動域を制限・治癒環境の確保

変形の防止と矯正など 骨癒合促進

種類

内固定 観血療法の際にプレートや鋼線などで固定

外固定 皮膚を介し関節的に固定

無褥ギプス(指・下腿骨遷延)有窓ギプス(患部観察)歩行ギプス(免荷)ギプスベット(脊柱)

肢位

理想は機能的肢位 骨折→整復位 脱臼→損傷した関節構成組織が弛緩する肢位

範囲

原則 最低限の関節固定(骨折:上下各一関節を含めた範囲

期間

骨折→グルトの骨癒合日数を標準 脱臼→長期は関節拘縮、早期は反復性脱臼

材料

硬性 金属副子(クラーメル・アルミ副子)・副木・合成樹脂副子・厚紙副子・ギブス

軟性 巻軸帯・三角巾・絆創膏・ガーゼ・綿花・サポーター

E 後療法                                                                                   

手技療法

軽擦法(手技療法の開始と終了)・強擦法・揉法・叩打法・振戦法・圧迫法・伸長法

禁忌:創傷部・発疹部・腫瘍部・妊娠中の腹部と生理中の腰腹部・神経炎の急性期

運動療法

力源よりみた型 他動運動と自動運動(自動介助運動・自動運動・抵抗自動運動)

筋収縮からみた型

  靜的収縮 等尺性収縮・同時性収縮(共同収縮)

  動的収縮 等張性収縮 求心性収縮(生理的筋収縮)・遠心性収縮(伸張性筋収縮)

等速性収縮(cybexなどの器具使用)

禁忌:38度以上の熱・急性症状や心疾患がある時

安静脈拍100以上・拡張期血圧120以上または収縮期血圧100以下で自覚症状

物理療法

電気療法

低周波電流療法・中周波電流療法など

禁忌:血栓性動脈炎・悪性腫瘍・感染症・高血圧・心臓病(ペースメーカー使用)

    38度以上の熱、電気刺激過敏症、過緊張状態、妊婦の腰下腹部、乳幼児

寒冷療法

冷罨法・氷冷罨法・冷却ガス療法など

    禁忌:レイノー現象・高血圧・低血圧・結膜出血・鼻出血・紫斑病、寒冷アレルギー、皮膚鈍麻

光線療法

赤外線療法・レーザー光線療法など

    禁忌:出血・皮膚鈍麻・急性症状・悪性腫瘍・心血管障害・

皮膚疾患・浮腫・幼児や意識障害の患者

温熱療法

伝導熱療法(表面加熱)・変換熱療法(深部加熱)など

関節拘縮の緩和・関節可動域の拡大・代謝機能の促進

禁忌:出血・皮膚鈍麻・急性症状・悪性腫瘍・心血管障害・

皮膚疾患・浮腫・幼児や意識障害の患者

     短波療法の禁忌:金属片・ペースメーカー・虚血部位・眼球・睾丸・骨端軟骨

その他

湿性冷罨法・乾性冷罨法・湿性温罨法・乾性温罨法

F 指導管理                                                                    

 患者とその環境の把握

患者把握・年齢・住所・家庭環境・家族構成・住居環境・身体情報・就労(学)・スポーツ

 

患者の環境

臥床時の体位・患肢保持の管理・姿勢の指導管理・歩行・衣服の指導管理

食事の指導管理・入浴・清拭・トイレの指導管理・体調把握の指導管理

施術所外でできる運動・許容禁忌事項の質疑と指導管理

住居環境

 

部屋の指導管理・寝具の指導管理・家具の指導管理・トイレ様式の指導管理

入浴の指導管理・緊急時対応

就労(学)

スポーツ環境

就労環境の指導管理・就学環境の指導管理・スポーツ環境の指導管理

整復に対する指導管理

整復手技の理解・整復手技の管理・整復後の指導管理

固定に対する指導管理

固定の理解と指導管理・固定後の指導管理

後療法に対する指導管理

用量の指導管理・患者側への準備に対する指導管理・患者の理解ならびに指導管理

自己管理に対する指導管理